ツバス ルアーへの目覚め編(2)
2019年6月上旬。
ツバス狙いで神戸の波止に向かう。
この日のタックルは、エギングタックル。
知人からの貰い物だ。
ソルパラのエギングロッドと、
PE0.6号が巻いてあるDaiwaのリール。
勿論、エサ派の僕は今までこのタックルで
エギを投げたことはない。
もっぱらカワハギ釣りに使ってきた(^_^;)
「ルアータックルのみで釣り場に向かう」
かつてこれ程の不安があっただろうか?
忘れもしない、人生を決める入社試験の当日。
地下鉄の駅を降りて地上に出て彷徨う事5分。
ようやく駅を間違えていた事に気づく。
青ざめながら駅に戻り、電車に飛び乗り、
会社に到着した時には、すでに15分遅刻で、
受付のお姉さんに
「社会人の自覚無いねー!」と
抜群の接客スマイルで言われた時でさえ、
ここまで不安にはならなかった。
Tさんに購入をお願いしておいた
爆釣ルアーこと「VJ」を受け取る。
因みにVJとは
バイブレーションジグヘッド
のことらしい。
震えるジグヘッド?
そもそも、ワームってプルプルさせて
誘うもんじゃないの?
手に取ってみる。
カタクチイワシかな?
魚の顔がジグヘッドにプリントされてある。
ワームは白地にピンク。
まるでイチゴミルクやん(^◇^;)。
Tさん曰く、
濁りがある時はこれくらい派手な
方がいいらしい。
でも、こんなイチゴミルク色、
海の中におらんやろー?(^^;)
うん、やはり釣れる気がしない。
が、ここまできた以上もうやるしかない。
まぁ海の前に立つだけでも気持ちいいもの。
気分転換にはなるだろう、と開き直る。
ルアーの準備は、エサのそれに比べたら
もー、それはビビるほどすこぶる簡単!
荷物も驚くほど少ない。
こんなんで釣れてしもたら
「今までの手間は、苦労はなんやったんや?」
ってなる。
人生、近道はなし。
コツコツこそ、勝つコツだ。
そんなハスに構えた中学二年生のように、
ブツブツ呟きながら、タックルを組みあげる。
さぁ、始めようかな。
「Tさん、これ、アクションとか
どうしたらええんすかね?」
「あ、基本ゆっくりの
ただ巻きでOKです!」
ウソやろ?
マジですか。
ルアーってピュッピュってしゃくったり
ジャカジャカ巻いたりせなアカンのちゃうの?
ただ巻くだけって、
そんなんあなた、
プラの塊がスーッて動いてるだけやん?
そんなん100%ニセモンって秒で
見切られますやんかー。
不安でチワワのような潤んだ瞳になる。
しかし、
今日のぼくの戦力はこれしかない。
今日はルアーと心中するつもりで
エサタックルは敢えておいてきたのだ。
見よう見まねでとりあえず始める。
ふと、ルアーの動きが気になり、
巻きながら水面を見てみる。
すると小刻みにプルプル震えながらVJが
近づいてくる。
しかも、弱った魚を演出するかのように
途中で適度にバランスを崩す。
「なんやこれ!?」
「めっちゃ魚みたいな動きするやん!?」
「これか?」
「これが
バイブレーションなんちゃらって奴か!」
「あかん、舐めてた。」
「これちょっと釣れそうな気がするぅー。」
これまであれほど頑なに開かなかった
僕の心のルアーの扉が、ギギっと軋んだ
音が聞こえた。
その時!
「来ましたよ!」
Mくんがいい笑顔で叫ぶ。
まだ、数投しか投げてないはず。
「(え?)」 (´⊙ω⊙`)
驚きで声が出ない。
「25センチくらいですねー」
Mくんが僕にツバスを見せてくれる。
間髪入れずに、
「こっちも来ましたわ」
今度はTさんが同サイズのツバスを
抜き上げる。
「(えぇ?)」 (´⊙ω⊙`)
僕は目の前の現実について行けない。
ルアーやろ?
ニセモンのプラスチックやろ?
こんなに簡単に釣れてええのん?
もしかして、
もしかしてだけど、
「ルアーって魚が釣れるんか?」
そんな、
ルアーメーカーに喧嘩を売り、
ルアー開発者を完全に敵に回す
心の声が思わず漏れる。
錆ついた僕の心のアンチルアーの扉が、
クレ556をスプレーされたかのように、
音もなくスーッと開き出す。。。
目の前の現実を認められない、
いや、認めたくない。
盗んだバイクで走り出しそうな
中2のもう1人の自分が
「大人を信用すんな!」
と、活きエサを振り回しながら
脳内で激しく抵抗する。
分かる、
分かるぞ、
もう1人の俺 (;´д`)。
戸惑いながらリールを巻いていると、
「ガツン!」
突然の強いアタリ。
同時に手元に子気味良いヒキが伝わる。
「え。」(´⊙ω⊙`)
「なにこれ。」
「うそ。」
「こんなに簡単に釣れるの?」
「しかもイチゴミルクやで?」
これまでツバスは豆アジ釣って、
豆アジノマセしてたのに。。。
バカバカしくなるやん。
現実を受け入れたくなく、
再び心の扉を閉じようとしていたが、
それをあっさりぶち壊す
圧倒的な現実。
なんと開始わずか3投目でツバスが
釣れてしまったのである。
錆び付いた僕の心の扉はフルオープン。
中2の僕も無事、卒業。
まさに大人の階段を登った気分。
幸せは「生餌」がきっと運んでくれると
信じていたのに。
「VJ、スゲー!」
なに、このルアー。
これが神ルアーと呼ばれる力なのか!
周りにもルアーマンは多く、
メタルジグなどを放っているが、
明らかにVJを投げている僕ら3人に
アタリが集中している。
その後、アタリはあるものの上手く
乗せられないなか、なんとか3匹を追加。

自分の価値観が大きく変わったことが
実感できた釣行。
まさに、これが僕の第二の釣り人生の
スタートとなるのであった。